障がい者雇用

 

平成29年度内閣府主催 障害者週間連続セミナー
「精神障がい者雇用は今」 
2017年12月7日、有楽町伊朝日ホール「スクエア」で開催された「働く広場」公開講座で
進工舎代表取締役田中社長と従業員の小林さんの発言だけ抜粋して掲載しています。

 
 
 
 
 
 
 

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  • 障がい者雇用に関して

意欲ある誰もが
働ける会社にするために(田中社長)

 当社は、名古屋の住宅地のなかにある町工場で、主に電力部品を製造しています。経営理念は、「意欲ある全ての人を応援し、意欲ある誰もが働ける会社を目指します」です。これは、20年前から障害者雇用にかかわり、障害者のみなさまを応援するなかで、社員全員と共有すべく名刺の裏に印刷した言葉です。
 初めて障害者を採用したのは、既存社員からの紹介がきっかけでした。しかし、2人目以降を採用するきっかけとなったのは、当社が所属する中小企業家同友会を通じて、就労実習を実施したことでした。この同友会は、「よい会社にすること」、「よい経営者になること」、「よい経営環境をつくること」の3つを目的とし、すべての人が生きがいをもって暮らせる・働けることをテーマに掲げる団体です。全国で約5万社、愛知県で約4000社の中小企業が所属しています。
 20年前、名古屋市の精神保健福祉センターから、同友会に障害のある方々の就労実習の依頼がありました。それに当社が手をあげ、実習生を受け入れたことが、本格的な障害者雇用の始まりです。以来、多くの障害のある方を受け入れ、現在につながっています。

 
 

中小企業の利を活かした
アットホームな定着支援(田中社長)

当社では、大企業のような体系的な取組みはありませんが、中小企業ならではのやり方で取り組んでいます。例えば、NC旋盤(せんばん)という電子部品を担当している障害のある方は、一つのことに集中しすぎると大事な作業工程を忘れることがあるため、ポイントを書いた紙を機械に貼っています。
 当社が障害のある方を雇用するまでのストーリーは、見学から始まります。さまざまな支援施設や高等養護学校から見学に訪れ、現場を知っていただく、いわば"出会いの場"です。それから、1~2週間の実習、3カ月間のトライアル雇用を経て、雇用という流れになります。
 職場定着に必要となる第1のポイントは、がまんせずに何でもいえる環境と、体調に合わせた勤務時間体制です。例えば、障害のある方にとっての1時間と、私たちにとっての1時間は大きく違います。残業を30分お願いしたら、障害のある方々にとっては、私たちが考えている以上に負担になってしまうのです。そういったこともあり、勤務中、調子が悪くなったときはがまんせず周りにいうよう伝えています。なかには、体調に合わせて1日の勤務時間を1時間半にしている方もいます。
 第2のポイントは、担当者任せではなく、全社的に取り組むことです。「私が責任をとるから、担当者は思うようにやってみなさい」と、社長の私が担当者に伝えることで、成功の可能性は高まると思っています。
 第3のポイントは、障害種別ではなく、個々の持ち味を知ることです。同じ精神障害のある方でも、それぞれ応援すべきところは異なります。だからこそ、実習や面接を必ずやっていただきたいのです。
 また、「期待しつつ、期待しすぎずに接すること」もポイントの一つ。例えば、当社で働く方のなかで、特殊なプログラムを組むことができる精神障害のある方がいます。その方が休みの日に、どうしてもそのプログラムが必要となり、会社に来ていただいたことがあります。彼は、「頼っていただいてありがとうございます」といってくれました。期待しすぎて専門のポジションを与えてしまうと、その方が休みを取りにくくなってしまいますが、適度に期待することは、その方の元気につながるのです。 
 
 
 

後輩に教える立場となり
仕事を続ける自信を得る(小林さん)

私はいま55歳なのですが、最初に病気になったのは30年前、25歳のときでした。以来、ずっと薬を服用しており、副作用でフラついてしまうこともあります。それでも、いままでなんとかやってきて、これからも仕事を続ける自信が持てるようになりました。
現在、主に担当しているのは、卓上旋盤やNC旋盤、ボール盤といったさまざまな機械を扱う仕事です。なかでも、ボール盤を扱うのを得意としています。
以前は、建築関係の会社で内装の仕事をしていました。工期の終わりが近づくと残業が多くなり、きついと感じることも多かったです。退職後は、1年くらい間が空き、障害者職業センターを経てこちらに入社しました。現在の勤務時間は、週4日勤務の午前8時半から午後3時の5時間半で、1時間の休憩があり、無理なく働けています。毎日の生活リズムが整っていて調子よく、むしろ休み明けのほうが疲れてしまうほどです。
  社内の雰囲気はよく、社員の仲間も理解のある方ばかりで、いつも気軽に話しかけてくださいます。入社当初は先輩方に丁寧に仕事を教えていただきました。現在は、もうその先輩はおらず代わりに後輩が2~3人入ってきて、彼らに教える立場となっています。こうした経験の一つひとつが、いまある自信の源となっています。
 とはいえ、会社を辞めたいと思ったことが、まったくなかったわけではありません。自分は精神障がい者だからと、会社からさまざまな配慮をしていただいており、ほかの社員から見たら甘いのではないか、と悩んでしまうことがあるのです。
 
 


「ここで働きたい」と
思える職場づくり(田中社長)

 たしかに、会社の風土というのは大事だと思います。当社も、多様な障害のある方々をはじめ社員みんなが納得できるよう、就業規則を見直す機会をつくりました。最初に理念を書き出し、それぞれの規則が何のためにあるのか、何について語られているのか、細かいところを社労士さんと相談しながら決めていったのです。
 私は、立場的に他社を訪問する機会があります。そうすると、「あの会社では働きたくないな」と思う会社も少なくありません。ですから、私たちは、「自分たちが『ここで働きたい』と思える会社にしていこう」と、つねづね話しています。

 
 

障がい者同士でも理解が必要(小林さん)

 嫌な人、嫌なことがあっても、臨機応変に対応していくしかないと思います。世の中には、いろいろな人がいますから。
 私の場合、障害のある方で、多少そりの合わない方がいたのですが、だんだん話し合えるようになっていきました。障害者同士でも、互いに理解し合う姿勢が必要なのだと思います。
これからも、自分に負けることなく、なんとかやっていきたいです。とにかく続けること。それがいちばん大事なことだと思いますので、引続き精一杯がんばります。
 
 
 

実習の機会を提供し
「応援」していきたい(田中社長)

 最後となりますので、当社のあり方についてお話しさせていただきます。私は、ハンディの有無にかかわらず、実習の場・体験の場が絶対に必要だと思います。特にハンディのある方にとっては重要なことです。企業が「できない」、「忙しい」と言い訳せず、行動することが、社員の人生を大事にすることにつながるのではないでしょうか。
 いま、「就労困難者」という言葉があります。例えば、養護施設に通っていた方が18歳で施設を出て、住まいを探し、就職するのですが、定着できず辞めてしまう方が多いと聞きます。それは、実習経験がないために、なかなかうまくマッチングできないことが原因の一つです。
 私たち中小企業は、このような就労困難者の方々にも実習の機会を提供し、マッチングの可能性を高めるべきなのではないでしょうか。私たちにできることがあれば、「支援」というよりは、「応援」したい。そんな気持ちでいます。
 
本内容は平成29年度内閣府主催 障害者週間連続セミナー「精神障害者雇用は今!」にパネラーとして参加した、田中社長と従業員の小林さんに発言だけと掲載したものです。詳しくは独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の発行する「障害者と雇用・働く広場」平成30年3」月号をご覧ください。バックナンバーはこちら